Hungerford4章読む(12/20)

これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」18日目の記事です。もうカレンダーの体をなしていませんが、実はタイトルは「今年中」なので6日の猶予があったんですね。やった~!


5節はテンソル積です。テンソルという語は色んなところで目にはしますが、ベクトルが入れ子になったやつ・行列の多次元版、程度の認識しかありません。しかし今から見ていくテンソル積とは、 R上の加群 A_R {}_R Bから得られるアーベル群 A {\otimes}_R Bのことであり、関係するのかどうかはわかりません。読んでいきます。

 R上の加群 A_R {}_R Bとアーベル群 Cに対して、平衡(線形)写像 f : A \times B \to Cを以下の条件を満たす関数として定義します;

  •  f(a_1 + a_2 , b) = f(a_1 , b) + f(a_2 , b)
  •  f(a , b_1 + b_2) = f(a , b_1) + f(a , b_2)
  •  f(ar, b) = f(a, rb)

平衡写像を対象として、射を群準同型 hであり f : A \times B \to C g : A \times B \to Dに対して g = hfとなるものとした圏 \mathfrak{M} (A,B)を定義します。関数の合成なので結合律も単位律も大丈夫そうですね。テンソル積はこの圏における普遍対象となるらしいのですが、その前にまずテンソル積を定義しなければなりません(D5.1)。

 R上の加群 A_R {}_R Bに対して、まず Fを集合 A \times B加群ではない!)上の自由アーベル群とします。 K \lt Fを次の3つの形の元が生成する群とします。

  •  (a+a',b) - (a,b) - (a',b)(関係 (a+a',b) = (a,b) + (a',b)に対応)
  •  (a,b+b') - (a,b) - (a,b')(関係 (a,b+b') = (a,b) + (a,b')に対応)
  •  (ar,b) - (a,rb)(関係 (ar,b) = (a,rb)に対応)

商群 F/K、すなわち上記の関係で定義されるアーベル群のことを A,Bテンソル A {\otimes}_R Bと定義します。 (a,b)+K=a \otimes bとすると、先ほどの関係はそれぞれ (a+a') \otimes b = a \otimes b + a' \otimes b, a \otimes (b+b') = a \otimes b + a \otimes b', ar \otimes b = a \otimes rbに対応します。これらから n (a \otimes b)=(na) \otimes b=a \otimes (nb)や、特に a \otimes 0 = 0 \otimes b = 0 \otimes 0 = 0が言えそうです。

 A {\otimes}_R Bの元は有限和 \sum_{i=1}^r n_i (a_i \otimes b_i)で書けますが、例えば一般の a_1 \otimes b_1 + a_2 \otimes b_2を取ってくれば、これは a \otimes bの形で書けるとは限らないと思われます。また3番目の関係からわかるように、 a \otimes b = a_1 \otimes b_1 a=a_1 , b=b_1を意味せず、 A {\otimes}_R B = 0となる A \neq 0, B \neq 0が存在します。 Z_2 \otimes \mathbb{Q}がその例で、 (a, m/n)=(a,2m/2n)=(a2,m/2n)=0からわかります。

 i: A \times B \to A {\otimes}_R B , (a,b) \mapsto a \otimes bは明らかに平衡写像ですが、これを自然な平衡写像といいます。この i \mathfrak{M} (A,B)において普遍になります(T5.2)。すなわち A {\otimes}_R Bが、対象がアーベル群、射が平衡写像となるような圏において A \times B上の自由対象になるということです。
証明ですが、まず Fが自由アーベル群であることから A \times B \stackrel{g}{\to} Cに対して g_1 : F \to Cが唯一存在します。 gが平衡写像なので K \supset \mathrm{Ker} g_1となることから準同型定理によって F/K = A {\otimes}_R B \stackrel{\bar{g}}{\to} C, g = \bar{g} iが唯一存在することが言えます。

C5.3でテンソル積の間の写像を定義します。 R加群 A_R , A'_R , {}_R B , {}_R B'について加群の準同型 f: A \to A' , g: B \to B'が存在する時、唯一の準同型 f \otimes g : A {\otimes}_R B \to A' {\otimes}_R B' , a \otimes b \mapsto f(a) \otimes g(b)が存在します。これは A \times B \stackrel{h}{\to} A' {\otimes}_R B' , h(a,b)=(f(a),g(b))を考えてから、 A {\otimes}_R Bの普遍性により一意な \bar{h} = f \otimes gを導きます。
写像の合成は (f' \otimes g')(f \otimes g)=(f'f \otimes g'g)であり、 f,gに逆写像が存在する(同型)のとき f \otimes gの逆写像 f^{-1} \otimes g^{-1}となります。

(20220716追記:ここで出てきた f \otimes g \in \mathrm{Hom} (A \otimes B , A' \otimes B')と、 f \otimes g \in \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B')はどういう関係があるのでしょうか(演習4.5.6)。 これについては思ったより長くなったので記事を分けます)


明日も頑張ります。