Hungerford4章読む(1/2)

これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」25日目の記事ではありません。2022年ですね。さあ延長戦の始まりだ


4.7節のタイトルは「ALGEBRAS」…本のタイトル「Algebra」を回収した感じで熱いですね。日本語では「代数」よりも「(結合的)多元環」と言うようです。

多元環の定義7.1を読みます。単位的可換環 Kに対して K代数とは、環 Aについて、 (A , +)が単位的(左*1 K加群であって、左作用と環の積が両立 k(ab)=(ka)b=a(kb)するものです。特に Aが可除環のとき、 K代数 Aを可除代数と言います。

定義を見てもよくわからないので例を見ていきます。
まず簡単な例として環 R \mathbb{Z}加群であり整数倍について考えると確かに \mathbb{Z}代数です(20220701追記:このときD7.1の二番目の条件が環の分配法則みたいになる)。他にも単位的可換環 K上の多項式環やべき級数の環、あと要素が Kの元となる n \times n行列の環は、まあ K代数でしょう。
少し捻った例として、体 F上のベクトル空間 Vについて、自己準同型の集合 \mathrm{Hom}_{F} (V,V)は和を (f + g)(a)=f(a)+g(a)、積は関数の合成として環であり、 Fの作用に関して考えると F代数になります。このように体上のベクトル空間に多元環の構造を与えたもので、特に有限次元のものを有限次元代数と言うそうです。
さらに凝った例として、(乗法的)群 G可換環 Kとして群環 K(G)={\sum}_{g \in G} K K代数であり、 K上の Gの群代数と言います。群環の元は K(G) \ni {k_g}_{gh \in G} := k_{g_1} g_1 + ... + k_{g_n} g_n = {\sum}_{i=1}^n k_{g_i} g_iという有限の形式和で定義されていて、和 {\sum}_{i=1}^n k_i g_i + {\sum}_{i=1}^n r_i g_i = {\sum}_{i=1}^n (k_i + r_i) g_iと積 ({\sum}_{i=1}^n k_i g_i )({\sum}_{j=1}^m r_j h_j ) = {\sum}_{i=1}^n {\sum}_{j=1}^m (k_i r_j)(g_i h_j)単位元 1_K eによって単位的環でした。 K加群の構造は作用 k({\sum} r_i g_i ) = {\sum} (k r_i )g_iで得られて、可換性により作用と群の積が両立します。
複素数体 \mathbb{C}や実四元数の(可除)環は実数体 \mathbb{R}上の可除代数です。

最初の例で環 R \mathbb{Z}代数だと書きました。写像 R {\otimes}_{mathbb{Z}} R \to R , r \otimes s \mapsto rsはアーベル群の準同型です。整数倍 n(r \otimes s) = nr \otimes s = r \otimes nsと先の準同型の関係 n(r \otimes s) \mapsto n(rs) , nr \otimes s \mapsto (nr)s , r \otimes ns \mapsto r(ns)多元環における作用と環の積の両立に対応することがわかります。逆に、このようなテンソル積からの写像を用いて多元環の特徴づけにすることができます(T7.2)。
単位的可換環 Kと単位的 K加群 Aについて、 A K代数であることは、 K加群準同型 \pi : A {\otimes}_K A \to Aについて A {\otimes}_K A {\otimes}_K A \stackrel{\pi \otimes 1_A}{\to} A {\otimes}_K A \stackrel{\pi}{\to} A A {\otimes}_K A {\otimes}_K A \stackrel{1_A \otimes \pi}{\to} A {\otimes}_K A \stackrel{\pi}{\to} Aが可換になる*2ことと同値になります。さらに K代数 A単位元をもつことは、 K加群準同型 I: K \to Aについて、 K {\otimes}_K A \stackrel{T5.7の同型}{\to} A \stackrel{1_A}{\to} A K {\otimes}_K A \stackrel{I \otimes 1_A}{\to} A {\otimes}_K A \stackrel{\pi}{\to} A、同様に A {\otimes}_K K \stackrel{T5.7の同型}{\to} A \stackrel{1_A}{\to} A A {\otimes}_K K \stackrel{1_A \otimes I}{\to} A {\otimes}_K A \stackrel{\pi}{\to} Aが可換になる*3ことと同値になります。このような \piを積写像 Iを単位写像と言います。
 \Rightarrowテンソル積からの写像なのでテンソル積の普遍性(T5.6)から考えます。すなわち K双線形写像 A \times A \to A , (a,b) \mapsto abから積写像 \pi : A {\otimes}_K A \to Aを定義すると、どちらの順でも a \otimes b \otimes c \mapsto abcになります。積の単位元 1_A \in Aとなる*4とき、単位写像 I : K \to A , k \mapsto k 1_Aとすると、これは加群準同型でどちらの順でも k \otimes a \mapsto ka , a \otimes k \mapsto ak = kaとなります。
 \Leftarrow)可換図式を満たす積写像 \pi : A {\otimes}_K A \to A , \pi (a \otimes b) = abとすると、上の例で見たように k(ab) = \pi (k(a \otimes b) ) = \pi (ka \otimes b) = (ka)b = \pi (a \otimes kb) = a(kb)が得られます。同様に可換図式を満たす単位写像 I : K \to Aとすると、 I(1_K)a = 1_K a = aより A \ni I(1_K) = 1_Aとなります。

D7.3で多元環の用語をいくつか導入します。 K代数 Aの部分代数を、 Aの部分環でありかつ K部分加群であるものと定義します。次に K代数 Aイデアル(代数イデアル)を環 Aイデアルでかつ K部分加群であることとします。 K代数の準同型を環準同型であってかつ K加群準同型であるものとします。
多元環の環の意味でのイデアルが代数イデアルになるとは限りません。例えば \mathbb{Q}ベクトル空間 A = \mathbb{Q} a ab=0で環の構造を与えると \mathbb{Q}代数になります。 Aの真部分群は環のイデアルですが、スカラー \mathbb{Q} \times A \to Aが閉じないため \mathbb{Q}代数になりません。しかし Aが積の単位元 1_Aを持つ(そのような積を与えた)とき、環のイデアルは代数イデアルにもなります; k \in K , k 1_A \in Aよりイデアル Jについて kJ = k(1_A )J \subset J
代数イデアル Iによる Aの剰余代数や K代数の族の直積や直和は、剰余環や環の直積・直和と同じように考えればよさそうです。

テンソル積は代数を構築するのに使われるそうです。そのことを証明するために、加群の同型 A {\otimes}_K B \stackrel{\alpha}{\cong} B {\otimes}_K A , \alpha(a \otimes b) = b \otimes aを確認します。まず双線形写像 (a,b) \mapsto b \otimes aから群準同型 \alphaを誘導し、これがスカラー r(a \otimes b) = (ra \otimes b) \mapsto (b \otimes ra) = r (b \otimes a)によって加群の準同型になることを確認すれば、逆写像は簡単に作れるのでよさそうです。
ではT7.4を見ます。これは K代数 A,Bについて \piを以下の関数の合成で定義します; (A {\otimes}_K B) {\otimes}_K (A {\otimes}_K B) \stackrel{1_A \otimes \alpha \otimes 1_A}{\to} (A {\otimes}_K A) {\otimes}_K (B {\otimes}_K B) \stackrel{ {\pi}_A \otimes {\pi}_B }{\to} A {\otimes}_K B。ここで {\pi}_{-} A,Bの積写像とします。 A {\otimes}_K B K代数となり、この \piは積写像です。
前半の写像 (A {\otimes}_K B) {\otimes}_K (A {\otimes}_K B) \stackrel{T5.8}{\cong} A {\otimes}_K (B {\otimes}_K A) {\otimes}_K B \stackrel{1_A \otimes \alpha \otimes 1_B}{\cong} A {\otimes}_K A {\otimes}_K B {\otimes}_K Bということだと思います。写像テンソル積はT5.5で定義されています。 A {\otimes}_K Bの生成元について考えると、積写像は具体的に (a \otimes b)(a_1 \otimes b_1) = \pi (a \otimes b \otimes a_1 \otimes b_1) = a a_1 \otimes b b_1となり、可換図式を満たしそうです。積の単位元 1_A \in A , 1_B \in Bが存在するとき、 I : k \mapsto k(1_A \otimes 1_B)とすればこれが単位写像になり I(1_K) = 1_A \otimes 1_B単位元となります。

ここで定義した K代数のテンソル積を用いて体 K上の可除代数の構造を調べていくようです。9章で(そこまで読む日が来るのか?)


やった~~~~~~~終わった~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!

少しだけ2021年を飛び出しましたが、これで4節「加群」を全て読んだことになります。演習や難しいところを見て見ぬふりしたので理解した気は全くしませんが…。最初のほうは余裕があったのか短くまとめようとして(余計にわかりにくくして)ましたが、後半はただの写経する機械になってしまいました。
次はどうしよう、素直に5章のガロア理論に進むのがいい?あまり沼にはまりたくはないのでほどほどの楽しさが欲しいところなんですが、何かいいのがあればいいな。

もう頑張らなくていいんだ。

*1:可換環なので加群・代数の左右は ka=akで同一視できる

*2:本当は可換図式で書くのですが…

*3:本当は可換図式で書くのですが…2

*4:恒等写像と紛らわしいですね