Homのテンソル積と、テンソル積間のHomの違いについて

Hungerford4章読む(12/20)で出た、加群準同型のテンソル積について考えます。そこでは R加群 A_R , A'_R , _R B , _R B'に対して、 \mathrm{Hom} (A \otimes B , A' \otimes B')と、 \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B')の違いが問題となってました。


まず、 (f, g) \in \mathrm{Hom} (A, A') \times \mathrm{Hom} (B, B')とすると、 A \times Bからの平衡写像 (a,b) \overset{(f,g)}{\mapsto} (f(a),g(b)) \overset{canonical}{\mapsto} f(a) \otimes g(b)が存在するので、 A \otimes Bの普遍性から f \otimes g : a \otimes b \mapsto f(a) \otimes g(b)が一意に得られます。この対応 (f, g) \mapsto f \otimes gが平衡写像になることを確認することで、 \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B')の普遍性から、アーベル群準同型 \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B') \to \mathrm{Hom} (A \otimes B , A' \otimes B')が得られます。

 A, Bが自由加群の場合について考察を進めます。自由加群からの写像は基底を与えることで定まるので、 \mathrm{Hom} (A, A')の代わりに Aの基底 Iを用いて A' ^Iを考えます。 \mathrm{Hom} (A \otimes B, A' \otimes B')の代わりは、まず \mathrm{MidLin} (A \times B, A' \otimes B')を考えて、自由加群の直和は自由なことから、先と同様に Bの基底 Jも用いて (A' \otimes B') ^{I \times J}です(基底からの行先を決めれば平衡写像は定まる)。したがって A' ^I \otimes B' ^J \to (A' \otimes B') ^{I \times J}を考えればいいのですが、これは {\prod}_{i \in I} A' \otimes {\prod}_{j \in J} B' \to {\prod}_{i \in I, j \in J} A' \otimes B'を調べることに相当します。

基底 I, Jが有限の場合は、T5.9を2回使うことで {\sum}_{i \in I} A' \otimes {\sum}_{j \in J} B' \cong {\sum}_{i \in I, j \in J} A' \otimes B'が得られ、つまり同型となります。物理で行列のテンソル積を考えることがありますが、これでベクトル空間の元の意味なのか線形写像の意味なのかで不安にならずに済みますね。

基底が無限の場合はどうしましょう。T5.9では直和の入射を使って逆射を構成しているため、同型を言うのは無理そうですが単射ならば、右辺のほうが大きそうなので言えそうな気がします*1。自由加群テンソル A \otimes BはT5.12を見ると基底 \lbrace i \otimes j | i \in I , j \in Jの有限線形和で一意に書けるので、 0 = a \otimes bのときそれぞれ基底に展開すると a = 0 \ or \ b = 0です。このとき u \otimes b \mapsto \lbrace \pi _i (u) \otimes b \rbrace _iで定義される準同型の核は0になりそうなので、これで単射であることがいえます。

ここで話が急に変わりますが、 Rを単位的可換環として、 f ,gの値域がともに R代数 Cの場合を考えます。このとき、 a \otimes b \overset{f \otimes g}{\mapsto} f(a) \otimes g(b) \overset{\pi}{\mapsto} f(a)g(b)です。特に Cが整域ならば \pi単射になります。したがって関数の積 fg A \otimes B \to C , a \otimes b \mapsto f(a)g(b)として、 f \otimes g \in \mathrm{Hom} (A \otimes B , C \otimes C)と同一視することができます。
上の段落で述べたようにこの同一視は \mathrm{Hom} (A, C) \otimes \mathrm{Hom} (B, C)でも行えます。線形変換のテンソル積( \mathrm{Hom} (A, C) \otimes \mathrm{Hom} (B, C)のほう)は、Wavelet変換や機械学習などの分野で出てきて、そこでは f : A \to C g : B \to Cテンソル積を f \otimes g = fgと「定義」しますが、これはおそらくこういう流れで正当化されるのではないかと思います。


「~を読む」の記事だと間違ってても、「まあ単なる読書録やしな」で済みそうですが、こういう独立した記事だと怒られそうな気がしてすごく怖い。うっかり読んでしまって間違いに気づきましたら優しく指摘して頂けるとうれしいです。

*1:というか検索した感じどうやら単射らしいので何とか理屈をこねてるんですが…