Hungerford7章読む(12/6)

これは「今年中にHungerford7章読むぞ Advent Calendar 2022」5日目の記事です。
昨日は寝てました。一日40時間くらい欲しい…。どこかで取り返せたらいいですね。


D2.2で導入された行階数・列階数が等しいことを示します(C2.5)。えいえいおー
T2.3で行列の階数は対応する準同型の階数と等しいことを、P1.10で準同型の行列は双対な準同型の行列になることをすでに知ってるので、まず準同型の階数から攻めていくようです。P2.4は、可除環 D上の有限次元ベクトル空間間の準同型 f: E \to Fの階数が双対写像 \bar{f} : F ^{*} \to E ^{*}の階数と等しいと言っています。これは4章の範囲ですね。階数・退化次数の定理(C4.2.14)より Eの基底を具体的に置いて \mathrm{Im} fの基底を計算すると、T4.2.4により Fの基底を \mathrm{Im} fの基底に適当に元を加えることで作ることができます。双対写像をT4.4.11(ii)を見ながら作ってその像を計算すると、もとの写像の像に移る Eの基底の双対が現れるので証明できます*1

もうC2.5はほとんどできたようなものです。先に行列 A \in \mathrm{Mat}_{nm} Dが与えられている状況なので、標準的な順序付き基底によって、準同型 D ^n \to D ^mを構築してP2.4に帰着します。


正直モチベーションが下がりつつあり、1記事あたりのボリュームにも表れてますね。

明日も頑張ります。

*1:めんどくさがって文字で書くから余計に意味不明になってしまった…

Hungerford7章読む(12/4)

これは「今年中にHungerford7章読むぞ Advent Calendar 2022」4日目の記事です。
まあアドベントカレンダーの記事ですって書いてるけど、Adventarには登録してない(というか削除した)んですが…


7.2節では対等*1な行列について、成分の環が可除環や主イデアル整域のときに調べていくようです。また、対等な行列のいい感じの形(標準形)が得られます。この辺は、2章の有限生成アーベル群の表示を得たときにその直和分解を計算するところでちらっと出てきたので印象的でした。

T4.2.1により、単位的環 Rの自由加群 R(のコピー)の直和と同型でした。ここまで n個の要素からなる順序付き基底を持つ自由加群に対してその(行)ベクトルを考えたりしてましたが、 R ^n = R \oplus ... \oplus Rに対して標準的な順序付き基底を {\epsilon}_1 = (1_R , 0 , ... , 0) , ... , {\epsilon}_n = (0 , ... , 0 , 1_R)と定義します。左 R加群準同型 f: R ^n \to R ^mの標準的な順序付き基底に対する行列 A \in \mathrm{Mat}_{nm} Rを考えると、 Aの行ベクトルで生成される左加群 R ^mの部分加群を行空間といい、これは \mathrm{Im} fと同型になります。左右を取り換えると、 A \in \mathrm{Mat}_{nm} Rの列ベクトルで生成される右加群 R ^nの部分加群を列空間といいます(D2.2)。

以降しばらくは可除環 D上の行列を考えます。
可除環上の自由加群(ベクトル空間)には次元が定まります。線形写像 f: E \to Fについて、 \mathrm{Im} f \subset F \mathrm{Ker} \subset Eの次元として階数(rank)と退化次数(nullity)が定義されます(D2.1)。D2.2で定めた行空間や列空間の次元のことを行階数・列階数といいます。この時、左加群準同型の像がその行列の行空間と同型なことから、準同型の階数と行列の行階数が等しいことがわかります(T2.3)。

あまり進んでいませんがぼんやりしてたら24時を優に超えてる(今日起きたのが19時)のでここで終わります。


アドカレやると一日の進みが早くなる…というか他に何もできなくなる(これさえやっとけば一日頑張った気になるので他のやる気がなくなる)しやめたほうがよかったかも…

明日も頑張ります。

*1:前までは同値と書いてたけど同値関係と混同するので…

Hungerford7章読む(12/3)

これは「今年中にHungerford7章読むぞ Advent Calendar 2022」3日目の記事です。
超眠い。


1日目の記事で、準同型の行列が行ベクトルに右から作用する形になっていることについて「よく見る形とは縦横が逆ですが」と文句を書きましたが、どうやら7.1節の残りはそのことを議論するようです。

(非可換)環 Rについて、今まで左加群を考えてた*1ところを右加群にしてみようという感じです。このとき、基底 U n個の要素を持つ自由右 R加群 Eから基底 V m個の要素を持つ自由右 R加群 Fへの準同型 fは、 n \times 1行列(列ベクトル)に m \times n行列を左から作用させて m \times 1行列を得ることに対応します。
このときT1.2~T1.4の対応物がT1.9(i)~(iii)で示されています。特に可換環のときは単に転置を取ればいいですね。T1.4で反同型とかいうめんどくさいのを考えましたが、今回は関数の合成と行列の積で順番が逆転しないので素直に同型です。

1節の最後は双対加群の間の準同型を考えます。基底 U n個の要素を持つ自由左 R加群 Eから基底 V m個の要素を持つ自由左 R加群 Fへの準同型 f U, Vに対する行列 Aが、双対右加群の間の準同型 \bar{f} : F ^{*} \to E ^{*}の双対基底 U ^{*} , V ^{*}に対する行列にもなるということらしいです。特に R可換環ならば、上でもやったように転置を取ることで加群の左右を揃えて、 A ^tは双対左加群の間の準同型 \bar{f} : F ^{*} \to E ^{*}になります。
証明は、基底が有限なので具体的に双対基底を取ってきて双対加群を作れる(T4.4.11)ので、計算すればいいです。


おっ1節が終わった、いいペースですね(24時をまたぎながら)。

明日も頑張ります。

*1:私は手抜きしてたのでちゃんと明示してなかった気がするけど…

Hungerford7章読む(12/2)

これは「今年中にHungerford7章読むぞ Advent Calendar 2022」2日目の記事です。


前回も書きましたが、単位的環 R上の自由加群の間の準同型に対する行列を得るには順序付けられた基底の選択が重要でした。つまり同じ準同型から異なる行列が得られうるのですが、T1.6はそのような行列の間にどのような関係があるのかが調べられています。

その準備として、L1.5では逆行列が存在する必要十分条件がある同型の行列となることを証明しています。T1.3によって合成写像が行列積と対応することと、T1.2から同じ基底の間での恒等写像に対応する行列が単位行列を用いてやればよさそうです。

さて、T1.6です。単位的環 R上の自由加群 E, Fがそれぞれ有限の順序付き基底 U, V, |V|=m, |U|=nを持ち、これらに対する f \in \mathrm{Hom}_R (E,F)の行列が A \in \mathrm{Mat}_{nm} Rとします。この時、 fが異なる順序付き基底 U', V', |V'|=m, |U'|=nに対する B \in \mathrm{Mat}_{nm} Rを持つことと、可逆行列 P,Qが存在して B=PAQとなることが同値です。今回も環が次元不変とは限らなくても言いたいからか言い回しが難しいですね。
特に自己準同型 f \in \mathrm{Hom}_R (E,E)で、 fの行列が始域と終域の基底に同じもの Uを取った A \in \mathrm{Mat}_{nn} Rのとき、異なる基底に対する fの行列 Bが存在することは B=PAP ^{-1}となる Pが存在することと同値です(C1.7)。T1.6のような行列 A,Bの関係を同値、C1.7のような関係を相似といいます。ちょっと言い方がややこしいですが、同値関係や相似関係は同値関係です。

 \Leftarrowの証明で一部だけ特に説明が無かったところをメモします。 Eの順序付き基底 U = \lbrace u_1 , ... , u_n \rbraceとして、同型 g: E \to E Uに関する行列を Pとします。このとき g(U) Eの順序付き基底になるのは gが同型なことから大丈夫そうです。恒等写像 1_Eの順序付き基底 g(U) Uに関する行列は、 1_E (g(u_i)) = g(u_i) = p_{i1} u_1 + ... + p_{im} u_mとなる (p_{ij})ですが、これは Pのことです。ベクトルを動かすことは基底を反対方向に動かすことと同じだということですね。


一般の(単位的)環を考えてるので微妙に一般化されていますが、まあ今のところは見知った線形代数ですね。

明日も頑張ります。

Hungerford7章読む(12/1)

これは「今年中にHungerford7章読むぞ Advent Calendar 2022」1日目の記事です。

昨年に続いて今年もやっていきます。本当は5章にしたかったのですが、明らかに1ヶ月で読める分量ではないのでやめました。7章は「線形代数」と一応馴染みがある(はずの)範囲なのでこれならいけるでしょう、多分…。

誰も見ないのはわかった上で一応書いておきますが、これは私の勉強のモチベ維持のための個人的な記録であり、勝手な(誤りの含む)記述や書き換えが含まれるため、絶対に参考にしないでください。


線形代数ということで行列がメインだと思われますが、序文を読むとベクトル空間間の線形写像だけじゃなくて自由加群間の準同型も射程に入っているようです。せいぜい複素数の行列しかしらないので怖いですね。


T1.1までで行列の定義とその演算について述べられています。すなわち、環 R上の n \times m行列 A \in \mathrm{Mat}_{nm} R Rの元が縦に n行・横に m列のテーブル状に並べたもの (a_{ij})_{i \in \lbrack n \rbrack, j \in \lbrack m \rbrack}として、 \mathrm{Mat}_{nm} Rが成分ごとの和と各成分へのスカラー倍によって R-R加群*1となること、 n \times p行列と p \times m行列の行列積が結合的かつ和に対して分配法則が成り立つこと(すなわち \mathrm{Mat}_{nn} Rはこの和と積によって環となること)を言っています。

以降、行列を(単位的) R自由加群の間の準同型として考察するので、環 Rは単位的です。
T1.2によって、 \mathrm{Mat}_{nm} Rは要素 n個の基底*2の自由 R加群 Eから要素 m個の基底の自由 R加群 Fへの準同型 \mathrm{Hom}_R (E,F)と同一視されます。
 f \in \mathrm{Hom}_R (E,F)による Eの基底 \lbrace u_1 , ... , u_n \rbraceの行先を Fの基底 \lbrace v_1 , ... , v_m \rbraceで書くと、 f(u_i) = r_{i1} v_1 + ... + r_{im} v_mという風にして一意に r_{ij} \in Rが得られます。これを並べると行列 (r_{ij}) \in \mathrm{Mat}_{nm} Rが得られます。計算によりこの割り当てがアーベル群準同型であること、自由加群の性質により基底の行先が fを決定することを考えれば全単射であること(単射は零行列を考える)がわかります(アーベル群として同型)。特に R可換環のとき、 \mathrm{Hom}_R (E,F) (rf)(x)=f(xr)=f(rx)=rf(x)によって R加群になり、 R加群として同型になります。
行列 (r_{ij})の決定には基底の順序も用いられていることに注意します。

T1.2によって準同型の計算は行列積に置き換えることができます:  f(u) = f({\sum}_{i=1}^{n} x_i u_i) = {\sum}_{i=1}^{n} x_i f(u_i) = {\sum}_{i=1}^{n} x_i ({\sum}_{j=1}^{m} r_{ij} v_j) = {\sum}_{j=1}^{m} ({\sum}_{i=1}^{n} x_i r_{ij}) v_j = {\sum}_{j=1}^{m} y_j v_j に対して、 n \times m行列 A = (r_{ij}) 1 \times n行列(行ベクトル) X = (x_i) 1 \times m行列 Y = (y_j)とすれば、 Y=XAとなります。よく見る形とは縦横が逆ですが、 Rが可換ならば Y ^t = (XA) ^t = A ^t X ^tとすれば(もしくは最初から右加群で考えれば)見知った形にできます。

準同型の合成も行列によって得られます(T1.3)。 R自由加群 E, F, Gの有限な順序つき基底 U, V, Wを固定して、加群準同型 E \overset{f}{\to} F F \overset{g}{\to} G U, Vおよび V, Wに対して A \in \mathrm{Mat}_{np} R, B \in \mathrm{Mat}_{pm} Rと書けるとき、 U, Wに対する合成射 gfの行列は計算すると ABとなります。
自己準同型 \mathrm{Hom}_R (E,E)を考えると、これは合成を積とみなすことで通常の和と併せて単位的環になります。このとき \mathrm{Hom}_R (E,E)と正方行列の環 \mathrm{Mat}_{nn} Rは同一視できる(T1.4)のですが、積の順番が入れ替わってるために少し手間をかける必要があります。
まず、2つの環 S, Tの間の反同型 \theta : S \to Tを、アーベル群の同型で \theta(s_1 s_2) = \theta(s_2)\theta(s_1)となるものとします。すると \mathrm{Hom}_R (E,E) \to \mathrm{Mat}_{nn} Rは反同型です。これを単に同型な関係に言い換えるために、環 Rの反対環 R ^{op}を台集合と加法は Rと同じで積が a \circ b = baとなるものとして定義します。明らかに R ^{op} Rと反同型です。特に Rが可換の場合 R = R ^{op}です。
このとき、合成 \mathrm{Hom}_R (E,E) \to \mathrm{Mat}_{nn} R \overset{- ^t}{\to}  \mathrm{Mat}_{nn} (R ^{op})を考えると、これは環の同型となります。反対環は元の環が{単位的|可除}ならばその性質を引き継ぐので、有限次元ベクトル空間でも同様の定理が成り立ちます。


去年の最後のほうの写経マシンになってた後遺症がまだ残ってて、最初から文量が多めになっちゃいました。まだそんなに難しい話は出てきてないはずなんですけど、それでもこうやって文に起こすと負荷が大きいですね…何とか完走したいですが…。

明日も頑張ります。

*1:これは可換性を意味しているのではない

*2:不変次元性を持つとは限らないのでこんな言い方になる

Homのテンソル積と、テンソル積間のHomの違いについて

Hungerford4章読む(12/20)で出た、加群準同型のテンソル積について考えます。そこでは R加群 A_R , A'_R , _R B , _R B'に対して、 \mathrm{Hom} (A \otimes B , A' \otimes B')と、 \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B')の違いが問題となってました。


まず、 (f, g) \in \mathrm{Hom} (A, A') \times \mathrm{Hom} (B, B')とすると、 A \times Bからの平衡写像 (a,b) \overset{(f,g)}{\mapsto} (f(a),g(b)) \overset{canonical}{\mapsto} f(a) \otimes g(b)が存在するので、 A \otimes Bの普遍性から f \otimes g : a \otimes b \mapsto f(a) \otimes g(b)が一意に得られます。この対応 (f, g) \mapsto f \otimes gが平衡写像になることを確認することで、 \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B')の普遍性から、アーベル群準同型 \mathrm{Hom} (A, A') \otimes \mathrm{Hom} (B, B') \to \mathrm{Hom} (A \otimes B , A' \otimes B')が得られます。

 A, Bが自由加群の場合について考察を進めます。自由加群からの写像は基底を与えることで定まるので、 \mathrm{Hom} (A, A')の代わりに Aの基底 Iを用いて A' ^Iを考えます。 \mathrm{Hom} (A \otimes B, A' \otimes B')の代わりは、まず \mathrm{MidLin} (A \times B, A' \otimes B')を考えて、自由加群の直和は自由なことから、先と同様に Bの基底 Jも用いて (A' \otimes B') ^{I \times J}です(基底からの行先を決めれば平衡写像は定まる)。したがって A' ^I \otimes B' ^J \to (A' \otimes B') ^{I \times J}を考えればいいのですが、これは {\prod}_{i \in I} A' \otimes {\prod}_{j \in J} B' \to {\prod}_{i \in I, j \in J} A' \otimes B'を調べることに相当します。

基底 I, Jが有限の場合は、T5.9を2回使うことで {\sum}_{i \in I} A' \otimes {\sum}_{j \in J} B' \cong {\sum}_{i \in I, j \in J} A' \otimes B'が得られ、つまり同型となります。物理で行列のテンソル積を考えることがありますが、これでベクトル空間の元の意味なのか線形写像の意味なのかで不安にならずに済みますね。

基底が無限の場合はどうしましょう。T5.9では直和の入射を使って逆射を構成しているため、同型を言うのは無理そうですが単射ならば、右辺のほうが大きそうなので言えそうな気がします*1。自由加群テンソル A \otimes BはT5.12を見ると基底 \lbrace i \otimes j | i \in I , j \in Jの有限線形和で一意に書けるので、 0 = a \otimes bのときそれぞれ基底に展開すると a = 0 \ or \ b = 0です。このとき u \otimes b \mapsto \lbrace \pi _i (u) \otimes b \rbrace _iで定義される準同型の核は0になりそうなので、これで単射であることがいえます。

ここで話が急に変わりますが、 Rを単位的可換環として、 f ,gの値域がともに R代数 Cの場合を考えます。このとき、 a \otimes b \overset{f \otimes g}{\mapsto} f(a) \otimes g(b) \overset{\pi}{\mapsto} f(a)g(b)です。特に Cが整域ならば \pi単射になります。したがって関数の積 fg A \otimes B \to C , a \otimes b \mapsto f(a)g(b)として、 f \otimes g \in \mathrm{Hom} (A \otimes B , C \otimes C)と同一視することができます。
上の段落で述べたようにこの同一視は \mathrm{Hom} (A, C) \otimes \mathrm{Hom} (B, C)でも行えます。線形変換のテンソル積( \mathrm{Hom} (A, C) \otimes \mathrm{Hom} (B, C)のほう)は、Wavelet変換や機械学習などの分野で出てきて、そこでは f : A \to C g : B \to Cテンソル積を f \otimes g = fgと「定義」しますが、これはおそらくこういう流れで正当化されるのではないかと思います。


「~を読む」の記事だと間違ってても、「まあ単なる読書録やしな」で済みそうですが、こういう独立した記事だと怒られそうな気がしてすごく怖い。うっかり読んでしまって間違いに気づきましたら優しく指摘して頂けるとうれしいです。

*1:というか検索した感じどうやら単射らしいので何とか理屈をこねてるんですが…

Erdős–Kaplanskiの定理(Hungerford, Ex4.4.12c)

演習4.4.12cがすごく難しかったので記録。
取り合えず主張を書きます。

演習4.4.12c  Fを体。無限集合 X上の自由 F加群 Vに対し、 F ^X写像 X \to Fの集合としたとき、
 \mathrm{dim} _F F ^X = |F| ^{|X|}

この演習自体は、 Vの次元が無限次元においてその双対 V ^{*}と等しくない( \mathrm{dim} _F V = |X| \neq |F| ^{|X|} = \mathrm{dim} _F V ^{*})ことを示すもので、どうやらErdős–Kaplanskiの定理というようです。フランス語Wikipediaに記事があるのでGoogle翻訳に感謝しながら読むと、 |V ^{*}| \overset{全単射}{=} |F| ^{|X|} \overset{?}{\leq} \mathrm{dim} _F V ^{*} \leq |V ^{*}|を導く方針のようです。?の部分がわからなかったので他を当たります。

教科書N. Jacobson(1953)を読むと3ページに渡った証明があります。無限基数の性質 a \geq b \neq 0, a \geq |\mathbb{N}| \Rightarrow ab = a(HungerfordのT0.8.11)をよく使っています。大まかに書くと以下の流れになります。

  1.  V ^{*}の基底を X ^{*}として、 | V ^{*} | = |F| |X ^{*}|を示す。これは X ^{*}から有限の N個を取り出す場合の数と、 N個の基底に Fの元を割り当てる場合の数をそれぞれ計算して、さらに(HungerfordのT4.4.11: |X ^{*}| \geq |X|より) |X ^{*}|が無限なことに注意するとわかります。

  2. このとき |V ^{*}| = |F| ^{|X|}から、 |F| ^{|X|} = |F| |X ^{*}|となる。 |F| \leq |X ^{*}|ならば |X ^{*}| = |F| ^{|X|}が得られるので、以後は |F| \leq |X ^{*}|の証明を考える。これは |F| \leq |\mathbb{N}|ならば明らかなので、 |F| \gt |\mathbb{N}|を仮定する。

  3.  V ^{*}の線形独立な元(すなわち |X ^{*}|の要素)が |F|個以上とれることを証明したい。 x \in Xの双対 f_x \in X ^{*}として、 N個の基底 f_{x_n}を固定する。 N個の f^{(n)} \in V^{*} f^{(n)} = a^{(n)}_1 f_{x_1} + ... + a^{(n)}_N f_{x_N}, a_n \in Fと書くと、これらの線形独立性を N \times N行列 \lbrack a^{(n)}_m \rbrack _{nm}の非特異性に言い換えることができる。そのため、次のような性質を持つ集合 M \subset \lbrace a : \mathbb{N} \to F | a(i) = a_i \in F \rbraceを考える:
     \forall N \in \mathbb{N}, \exists a^{(1)} , ... , a^{(N)} \in M , \exists i_1 , ... , i_N \in \mathbb{N} , \lbrack a^{(n)}_{i_m} \rbrack _{nm}が非特異(これをstrongly independentな列の集合と呼ぶ)。すると線形独立な f \in V ^{*}の集合がstrongly independentな列の集合 Mから得られるので、 |M| \geq |F|を証明すればいいことがわかる。

  4.  |M| \geq |F|の証明の大まかな流れは以下。strongly independentな列の集合の集合 Sを考え、これに包含による半順序を入れる。鎖 T \subset Sの和集合もstrongly independentなのでZorn補題により Sの極大元 Mが存在する。この Mについて |M| \lt |F|としたとき、 \exists e \notin M M \cup \lbrace e \rbraceがstrongly independentとなるものが作れて、極大性に矛盾することを言えばよい。

  5. 無限列 eの構成は eの要素数についての帰納法によって行います。すなわち、任意の p \in \mathbb{N}に対して Fから長さ pの列 ( e_1 , ... , e_p )を取ってきて、 \forall r \leq p , M \cup \lbrace ( e_1 , ... , e_p ) \rbraceから得られる任意の r \times r行列が非特異にできることを調べます。
    まず p = 1のときは、 e_1 \neq 0とすれば M \cup \lbrace (e_1) \rbraceから非特異な 1 \times 1行列を作れることは明らかです。次にある p個の Fの元 e_1 , ... , e_pを取ってきて、 \forall q \leq pに対して M \cup \lbrace (e_1 , ... , e_p) \rbraceから得られる任意の q \times q行列が非特異であることを仮定したときに、 \exists e _{p+1} \in F , \forall r \leq p+1 , M \cup \lbrace (e_1 , ... , e_p+1) \rbraceから得られる任意の r \times r行列が非特異であることを証明すればいいです。
    行列の特異性は行や列の並び替えによって変わらないので、次の形の行列について考えればいいです:

 \begin{pmatrix}
 & & & * \\
 & \huge{A} & & \vdots \\
 & & & * \\
e _{i_1} & \dots & e _{i _{r-1}} & e _{p+1}
\end{pmatrix}

ここで AMから得られた r-1 \times r-1(非特異)行列です。したがって ( e_{i_1} , ... ,e_{i_{r-1}} ) Aの行ベクトル ( a^{(1)}_{i_1} , ... ,a^{(1)}_{i_{r-1}} ) , ... , ( a^{(r-1)}_{i_1} , ... ,a^{(r-1)}_{i_{r-1}} )の線形結合で表されます。この(唯一に定まる)係数を k_1 , ... , k_{r-1}とすると、 e_{p+1} \neq k_1 e_{i_1} + ... + k_{r-1} e_{i_{r-1}}であれば上の行列は非特異になるそうです*1
ここで Aおよび ( e_{i_1} , ... ,e_{i_{r-1}} )の選び方を考えると、まず Mから a ^{(1)} , ... , a^{(1)}_{i_{r-1}}を選び、その後 \lbrace 1 , ... , p \rbraceから i_1 , ... , i_{r-1}を選ぶので、 {\sum}_{r=1}{^{p+1}} _{|M|} \mathrm{C} _{r-1} \times _p \mathrm{C} _{r-1}通り*2あります。これは有限か |M|になるので、前者ならば |F| \gt |\mathbb{N}|(2で仮定)、後者ならば |M| \lt |F|(4で背理法の仮定)より、 |F|はこの場合の数よりも大きいことがわかります。
 Aおよび ( e_{i_1} , ... ,e_{i_{r-1}} )を与えると、 e_{p+1}として望ましくない wが1つ定まりますが、あらゆる選び方によって wを求めた集合 Wの要素数 |F|より小さいため、補集合から e_{p+1}を取ることで、任意の上の行列は非特異になります。

長かったですね。疲れた…


ところで検索をしていくと、https://arxiv.org/abs/2010.01983という論文で、別の証明方法が与えられているのを見つけました。アブストに「more natural and much easier」と書いているので期待が持てますね*3。読んでいきます。

arxiv:2010.01983では次の定理の系としてE-K定理を証明しています:

Theorem 2 @ arxiv:2010.01983  Fを体。自由 F加群 V |V| \geq |\mathbb{N}|を満たすとする。  F ^{\mathbb{N}} \overset{加群準同型}{\hookrightarrow} Vまたは |F| \lt |V|ならば、 \mathrm{dim} _F V = |V|

この定理で Vとして F ^Xを考えると、 |\mathbb{N}| \leq |X|より |F ^X| \geq |\mathbb{N}|かつ F ^{\mathbb{N}} \hookrightarrow F ^Xなので、直ちに \mathrm{dim} _F F ^X = |F ^X|が得られます。では証明を見ていきます。

  1. 体は少なくとも2つの元を持つことから、 \mathrm{dim}_F V \leq |V|がわかります。すなわち以下では \mathrm{dim}_F V \geq |V|を示すことを考えます。

  2.  V \neq {0}なので、 |V| \geq |F|。したがって |V| \gt |F| |V| = |F|の場合を考えれば十分。ここで |V| \gt |F|の場合を考えると、Jacobsonの証明の手順1と同様にして、 |V|は基底から有限の N個を取り出す場合の数と N個の基底に Fの元を割り当てる場合の数の積ですが、 \mathrm{dim} _F V \lt |V|のときこの場合の数は |V|にはならないので、これでOKです。

  3.  |V| = |F| (\geq |\mathbb{N}|)の場合を考えます。まず仮定 F ^{\mathbb{N}} \hookrightarrow Vを思い出すと、 \mathrm{dim}_F V \geq \mathrm{dim}_F F ^{\mathbb{N}}がわかります。したがって \mathrm{dim}_F F ^{\mathbb{N}} \geq |F|を証明すればいいことがわかります。
    これはJacobsonの証明の手順2とよく似ていますね。実際、以降の証明はJacobsonとかなり似た手順を踏むのですが、すでに体 Fの列が見えているので、Jacobsonの手順3で出る行列の動機が少しは自然に見えるような見えないような…。さらに有限和を考えるために複雑になっていた行列の性質が単純になっていることがわかります。これによって次のような単純化が行えます。

  4.  F^{\mathbb{N}}の部分集合(部分加群 A = \lbrace (a^n) | a \in F - \lbrace 0 \rbrace \rbraceを考えて、 Aが線形独立なことを証明すればよい。この時、 \mathrm{dim}_F F ^{\mathbb{N}} \geq \mathrm{dim}_F A = |A| = |F - \lbrace 0 \rbrace | \overset{|F| \geq |\mathbb{N}}{=} |F|です。
     Aが線形独立
\Leftrightarrow \forall p \in \mathbb{N} , {\sum}_{i=1}^{p} k_i (1, a_i , a_i ^2 , ... ) = 0 \rightarrow \forall k_i = 0 \\
\Leftrightarrow \forall p \forall n \in \mathbb{N} , {\sum}_{i=1}^{p} k_i a_i ^n = 0 \rightarrow ... \\
\Leftarrow \forall p \forall n \in \lbrace 0 , ... , p-1 \rbrace , {\sum}_{i=1}^{p} k_i a_i ^n = 0 \rightarrow ...
    3段落目は、雑に言うと P \to P'かつ P' \to Qならば P \to Qということをやってます。また(→)が成立しないことに注意します。
    3段落目\Leftrightarrow


\mathrm{det} \begin{pmatrix}
1 & \dots & 1 \\
a_1 & \dots & \vdots \\
\vdots & \dots & \vdots \\
a_1 ^{p-1} & \dots & a_p ^{p-1}
\end{pmatrix}
\neq 0

この左辺はヴァンデルモンドの行列式であり、 {\prod}_{1 \leq i \lt j \leq p} (a_j - a_i)と計算されます。これは( \lbrace a_i \rbraceが相異なるため)0でないことがすぐわかり、 Aが線形独立であることが示されました。

…こちらも議論が単純化されたとは言え中々の分量でしたね…。たいへんでした(小並感)。ただ、演習4.4.12cと見比べるとこちらが想定解っぽいですね。ヒントとして \lbrace (a^n) | a \in F - \lbrace 0 \rbrace \rbrace \subset F^{\mathbb{N}} \subset F^Xくらいあったら出来る人なら出来る…のかな…


両方の証明を見比べると、まあ考え自体は同じで、部分空間の行列の特異性を用いて次元を(下から)評価していますね。Hungerfordの5章はもうしばらく進められてませんが、体を拡大したときの相対的な次元が重要そうだったので、今後こういうテクニックが出てくるのでしょうか。

*1:確かめてない

*2:sumの上付きがうまくいかない…

*3:この比較対象は別の教科書ですが…