Hungerford4章読む(12/21)

これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」19日目の記事です。どこかで追い付きたいですがもう4日しかない…


しばらく前回導入したテンソル積についての命題が続きます。

P5.4により、左 R加群の右完全列 A \stackrel{f}{\to} B \stackrel{g}{\to} C \to 0と右加群 R_Dに対して、 D {\otimes}_R A \stackrel{1_D \otimes f}{\to} D {\otimes}_R B \stackrel{1_D \otimes g}{\to} D {\otimes}_R C \to 0がアーベル群の完全列となります。同様に右加群の右完全列と左加群について同じ形の完全列が導かれます。
証明は 1_D \otimes g全射となることと、 \mathrm{Im} (1_D \otimes f) = \mathrm{Ker} (1_D \otimes g)を言えばいいですが、特に \mathrm{Im} (1_D \otimes f) \supset \mathrm{Ker} (1_D \otimes g)は難しいので説明します。先に 1_D \otimes g全射であることと \mathrm{Im} (1_D \otimes f) \subset \mathrm{Ker} (1_D \otimes g)を証明すると、射影 \pi : D {\otimes}_R B \to (D {\otimes}_R B) / \mathrm{Im} (1_R \otimes f)準同型定理によってエピ射 \alpha : (D {\otimes}_R B) / \mathrm{Im} (1_R \otimes f) \to D {\otimes}_R Cを誘導します。あとはこれが単射なことを言えば目的を達成します。
そのため \alphaの逆写像を構成します。これは \beta : D \times C \to D {\otimes}_R B / \mathrm{Im} (1_R \otimes f)を作ってから D {\otimes}_R Cの普遍性を用います。すなわち \betaについて、任意の (d,c) \in D \times Cの行先がただ一つ定まることと、平衡写像であることが言えると \bar{\beta}が導かれます。最後に \bar{\beta} \alphaが恒等写像になることを言えば証明が終わります(実は \alpha \bar{\beta}が恒等写像になることも同じ計算で言える)。

上の証明で省略しましたが、加群全射準同型 h,kに対して 1 \otimes h , k \otimes 1が群の全射準同型になるので、 h \otimes k = (1 \otimes k)(h \otimes 1)も群の全射準同型となります。これは単射準同型では成り立たず、例えばアーベル群の単射準同型 Z_2 \stackrel{\alpha}{\to} Z_4として Z_2 {\otimes}_{\mathbb{Z}} Z_2 \stackrel{1 \otimes \alpha}{\to} Z_2 {\otimes}_{\mathbb{Z}} Z_4を考えます。 \alpha(1)=2となることから、 (m,1) \mapsto (m,2) = (m,2 \cdot 1) = (m \cdot 2 , 1) = 0よりこれは単射にはなりません( Z_2 {\otimes}_{\mathbb{Z}} Z_4 \neq 0 (1,1)を考えればよい)。

T5.5は、環 R,S加群 {}_S A_R , {}_R B , C_R , {}_R D_Sについて、テンソル積が加群となるような例を挙げています。

  •  A {\otimes}_R Bは左作用 s(a \otimes b) = (sa \otimes b)として左 S加群になります。 S-R加群準同型 f: A \to A'と左 R加群準同型 g : B \to B'とすると、誘導写像 f \otimes g : A {\otimes}_R B \to A' {\otimes}_R B'は左 S加群準同型となります。
  •  C {\otimes}_R Dは右作用 (a \otimes b)s = (a \otimes bs)として右 S加群になります。右 R加群準同型 h: C \to C' R-S加群準同型 k : D \to D'とすると、誘導写像 h \otimes k : C {\otimes}_R D \to C' {\otimes}_R D'は右 S加群準同型となります。

証明は、まず左作用を R平衡写像 A \times B \to A {\otimes}_R B , (a,b) \mapsto sa \otimes bが誘導する群の準同型として定義します。準同型性よりこれが任意の元 u=\sum_{i=1}^r n_i (a_i \otimes b_i)についても定義できて、それを suと書いて、 A {\otimes}_R Bが左 S加群であることを確かめればいいです。 f \otimes gについてはC5.3より (f \otimes g)(a \otimes b) = f(a) \otimes g(b)が群準同型なので、作用について確かめればいいです。

 R可換環の場合を考えます。このとき R加群 A ra=arによって R-R(両側)加群となるのでT5.5を用いると、 r(a \otimes b) = ra \otimes b = ar \otimes b = a \otimes rb = a \otimes br = (a \otimes b)rとできて A {\otimes}_R B R-R加群となります。
さらに平衡写像も適したものに置き換えることができます。すなわち、可換環 R上の加群 A,B,Cについて、平衡写像 A \times B \to Cにおいて3番目の条件 f(ar,b)=f(a,rb) f(ra,b)=rf(a,b)=f(a,rb)とした関数を双線形写像といいます。
可換環 R上の加群 Aとその双対 A^*に対して、 A \times A^* , (a,f) \mapsto f(a) = \langle a,f \rangleは(12/19の計算を思い出せば)双線形写像となります。

12/20の記事と同様にして、可換環 R上の加群テンソル積を、自然な双線形写像 i: A \times B \to A {\otimes}_R B , (a,b) \mapsto a \otimes bの普遍性によって特徴づけることができます(T5.6)。T5.5によって誘導されるアーベル群準同型が R加群準同型になるので、双線形写像の圏 \mathfrak{B} (A,B)の射が加群準同型になることに注意します。

最後に、単位的可換環 R上の加群テンソル A {\otimes}_R Bの、D5.1に沿った別定義を与えて終わります。D5.1でアーベル群だったところが R加群に置き換わっている点に注意します。
集合 A \times B上の自由 R加群 F_1と、次の4つの形が生成する部分加群 K_1を考えます。

  •  (a+a' , b) - (a,b) - (a',b)
  •  (a , b+b') - (a,b) - (a,b')
  •  (ra,b) - r(a,b)
  •  (a,rb) - r(a,b)

この時 R加群の同型 A {\otimes}_R B \cong F_1 / K_1が存在します。左辺はD5.1によるテンソル積の定義であることに注意します。これは、T5.2と同様の手順で A \times B \to F_1 / K_1 , (a,b) \mapsto 1_R (a,b) + K_1が双線形写像の圏 \mathfrak{B} (A,B)の普遍対象であることを言うことで、普遍対象の唯一性(T5.6)から示すことができる
…と書いてますけど、何で単位的を仮定して、しかも 1_Rを掛けているのでしょう? 1_Rがあるとうまく g=\bar{g_1}iが作れない気がするんですが…。 F_1は単位的自由加群だと思われるので、他の加群も単位的であることを仮定してるのかな?
(追記20220603:これ多分ABが単位的でないときを考えている?多分Rが単位的環でなくても同じことはできそう)


明日も頑張ります。