Hungerford4章読む(12/23)
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」21日目の記事です。
5節の最後は(単位的)自由加群におけるテンソル積のお話をしています。以下では単位的環を考えます。
単位的右加群と基底上の自由左加群に対して、T5.11は任意のがと一意に書けると言っています。すなわち、適当なを付け足すことでと書けたとき、となるという意味です。
証明ではまずを考えます。はのコピーであり、がと対応するイメージです。が線形独立なので全射は(核が自明なので)同型となり、T5.7と合わせてとなります。により、同型が得られました。の成分はとなるので、自然な単射によってとなります。したがって任意の元についてと唯一書くことができ、後はとすればいいです。
特別な場合として、がそれぞれ基底を持つ自由加群のとき、が自由(右)加群となり、その基底はとなります(C5.12)。括弧で右と書いたのは、実は任意の自由左加群は自由右加群でもあるからです。これは(やそのコピーの直和)が両側加群であることから従います。ややこしいですが、非可換な自由加群は両側加群にも関わらず、自由加群ではありません。すなわち加群の圏(射は群準同型で)において、上の自由対象になりません。任意のに対してですが、この時結合法則を考えるとが可換になってしまいます。とするとT5.5よりこれは加群となり、のように左右の作用をうまく区別することで自由対象となります(雑ですが、深入りしてこれ以上本筋から逸れたくないので…)。
T5.11の証明を用いると、群の同型が言えます。さらに自由加群が加群なことからT5.5よりは右加群であり、が加群準同型であることはからわかります(追記20220813:との同型を考えると、とできる)。特には自由加群の基底になります。
5節最後の命題C5.13は、の単位的部分環に対して、が上自由左加群のとき、が自由左加群であり、基底がとなると言っています。
まずが定義できて左加群となることはが加群であることからわかります。T5.11の同型によってが得られて、C5.12と同様にしてこれが加群(準)同型であることが言えます。がの基底となります。
C5.12は何となくですが普段見知った形のテンソルを導けそうな見た目をしています。成分に値を持つ行列のイメージでいいのでしょうか。C5.13は加群の係数を拡張するような操作っぽいですね。
正直もう全く自信をもって記述できるところがない…一応自分で計算はしてみてるんですが…。
明日も頑張ります。
Hungerford4章読む(12/22)
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」20日目の記事です。記号の量がどんどん膨らんできてTeXがおそろしいことになってきた…。
しばらく前回導入したテンソル積についての命題が続きます2
T5.7は、単位的環と単位的加群について、加群の同型が成立することを言っています。は加群になるので、左辺が加群になることはT5.5よりわかります。が平衡写像であることを確認すると、テンソル積の普遍性よりアーベル群の準同型が誘導され、これが左加群準同型であることもすぐにわかります。あとは逆写像をのように作ればいいです。
次に、テンソル積の結合法則のようなものを考えます。環と加群に対して、は右加群、は左加群なので、がそれぞれ定義でき、これらの間にアーベル群の同型が存在します(T5.8)。したがって単にと書くことができ、さらにn重のテンソル積を環と加群に対してと定義できます。これらもD5.1と同様にからの平衡写像の圏における普遍対象で定義できるという演習がありますが、ぱっと見ただけでめんどくさそうだったので飛ばします。
T5.8の証明ですが、まずがの形の元で生成されることを、テンソル積の定義に従って順番に展開していくことで示します。同様にはの線形結合で書けます。テンソル積の写像を作るために平衡写像をとして定義します。テンソル積の普遍性よりアーベル群の準同型が定義できます。同様にも導けて、これらが互いに逆写像となります。
T5.9で今度は分配法則のようなものが示されます。環、右加群、左加群に対して、アーベル群の同型とが存在します。
加群の直和に対して自然な入射と自然な射影が存在します。準同型は、射の族を用いて、として作れます。逆方向の準同型はテンソル積の普遍性を用いて、すなわち平衡写像からを誘導します。この平衡写像はいったん射影したあと入射で戻す形になっていますね。
あとはが互いに逆写像となることを言えばいいです。の元が、の元が自然な入射を用いてからそれぞれ生成されることに注意して計算すればできるようです。成分の計算において、本文では添え字の範囲をのように非零に限定して有限個の和であることを強調していたことを注記しておきます。
T5.10はテンソル積のAdjoint Associativityという性質についてです。日本語だと随伴結合法則?検索するとテンソル積とHomの随伴性などと言われているようです。環と加群に対してアーベル群の同型が存在し、任意のに対してが成り立ちます。関数適用の結合がテンソル積に置き換わるといった感じでしょうか。
この式のHomはともに右加群準同型の集合です。特には右作用によって右加群となります。証明は素直に、まず問題文に沿ったが構築できて、アーベル群の準同型であることを言ってから、逆関数をとして定義すればいいです。の定義は平衡写像を作ってから誘導すればよくて、T5.5を用いて右加群準同型だと言うことができます。
単位的・単位的でない・アーベル群・加群などが完全に混乱してきた…。
明日も頑張ります。
Hungerford4章読む(12/21)
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」19日目の記事です。どこかで追い付きたいですがもう4日しかない…
しばらく前回導入したテンソル積についての命題が続きます。
P5.4により、左加群の右完全列と右加群に対して、がアーベル群の完全列となります。同様に右加群の右完全列と左加群について同じ形の完全列が導かれます。
証明はが全射となることと、を言えばいいですが、特には難しいので説明します。先にが全射であることとを証明すると、射影が準同型定理によってエピ射を誘導します。あとはこれが単射なことを言えば目的を達成します。
そのための逆写像を構成します。これはを作ってからの普遍性を用います。すなわちについて、任意のの行先がただ一つ定まることと、平衡写像であることが言えるとが導かれます。最後にが恒等写像になることを言えば証明が終わります(実はが恒等写像になることも同じ計算で言える)。
上の証明で省略しましたが、加群の全射準同型に対してが群の全射準同型になるので、も群の全射準同型となります。これは単射準同型では成り立たず、例えばアーベル群の単射準同型としてを考えます。となることから、よりこれは単射にはなりません(はを考えればよい)。
T5.5は、環と加群について、テンソル積が加群となるような例を挙げています。
- は左作用として左加群になります。加群準同型と左加群準同型とすると、誘導写像は左加群準同型となります。
- は右作用として右加群になります。右加群準同型と加群準同型とすると、誘導写像は右加群準同型となります。
証明は、まず左作用を平衡写像が誘導する群の準同型として定義します。準同型性よりこれが任意の元についても定義できて、それをと書いて、が左加群であることを確かめればいいです。についてはC5.3よりが群準同型なので、作用について確かめればいいです。
が可換環の場合を考えます。このとき加群はによって(両側)加群となるのでT5.5を用いると、とできては加群となります。
さらに平衡写像も適したものに置き換えることができます。すなわち、可換環上の加群について、平衡写像において3番目の条件をとした関数を双線形写像といいます。
可換環上の加群とその双対に対して、は(12/19の計算を思い出せば)双線形写像となります。
12/20の記事と同様にして、可換環上の加群のテンソル積を、自然な双線形写像の普遍性によって特徴づけることができます(T5.6)。T5.5によって誘導されるアーベル群準同型が加群準同型になるので、双線形写像の圏の射が加群準同型になることに注意します。
最後に、単位的可換環上の加群のテンソル積の、D5.1に沿った別定義を与えて終わります。D5.1でアーベル群だったところが加群に置き換わっている点に注意します。
集合上の自由加群と、次の4つの形が生成する部分加群を考えます。
この時加群の同型が存在します。左辺はD5.1によるテンソル積の定義であることに注意します。これは、T5.2と同様の手順でが双線形写像の圏の普遍対象であることを言うことで、普遍対象の唯一性(T5.6)から示すことができる
…と書いてますけど、何で単位的を仮定して、しかもを掛けているのでしょう?があるとうまくが作れない気がするんですが…。は単位的自由加群だと思われるので、他の加群も単位的であることを仮定してるのかな?
(追記20220603:これ多分やが単位的でないときを考えている?多分が単位的環でなくても同じことはできそう)
明日も頑張ります。
Hungerford4章読む(12/20)
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」18日目の記事です。もうカレンダーの体をなしていませんが、実はタイトルは「今年中」なので6日の猶予があったんですね。やった~!
5節はテンソル積です。テンソルという語は色んなところで目にはしますが、ベクトルが入れ子になったやつ・行列の多次元版、程度の認識しかありません。しかし今から見ていくテンソル積とは、上の加群とから得られるアーベル群のことであり、関係するのかどうかはわかりません。読んでいきます。
上の加群ととアーベル群に対して、平衡(線形)写像を以下の条件を満たす関数として定義します;
平衡写像を対象として、射を群準同型でありとに対してとなるものとした圏を定義します。関数の合成なので結合律も単位律も大丈夫そうですね。テンソル積はこの圏における普遍対象となるらしいのですが、その前にまずテンソル積を定義しなければなりません(D5.1)。
上の加群とに対して、まずを集合(加群ではない!)上の自由アーベル群とします。を次の3つの形の元が生成する群とします。
- (関係に対応)
- (関係に対応)
- (関係に対応)
商群、すなわち上記の関係で定義されるアーベル群のことをのテンソル積と定義します。とすると、先ほどの関係はそれぞれに対応します。これらからや、特にが言えそうです。
の元は有限和で書けますが、例えば一般のを取ってくれば、これはの形で書けるとは限らないと思われます。また3番目の関係からわかるように、はを意味せず、となるが存在します。がその例で、からわかります。
は明らかに平衡写像ですが、これを自然な平衡写像といいます。このがにおいて普遍になります(T5.2)。すなわちが、対象がアーベル群、射が平衡写像となるような圏において上の自由対象になるということです。
証明ですが、まずが自由アーベル群であることからに対してが唯一存在します。が平衡写像なのでとなることから準同型定理によってが唯一存在することが言えます。
C5.3でテンソル積の間の写像を定義します。加群について加群の準同型が存在する時、唯一の準同型が存在します。これはを考えてから、の普遍性により一意なを導きます。
写像の合成はであり、に逆写像が存在する(同型)のときの逆写像はとなります。
(20220716追記:ここで出てきたと、はどういう関係があるのでしょうか(演習4.5.6)。 これについては思ったより長くなったので記事を分けます)
明日も頑張ります。
Hungerford4章読む(12/19)
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」17日目の記事です。当日途中まで書いていたのがあったのですがPCが再起動して消えてしまいしばらくやる気がなくなっていました。今から3日分を消化します。
環上の左加群の双対は準同型の集合でした。として、をとブラケットで表記します。は左準同型の集合なので、またが和と右作用によって右加群となることからが成り立ちます。
もう一つ、線形関数の表示に便利な記号としてクロネッカーのデルタを導入します;単位的環と添え字集合として、を、。
単位的環上の単位的自由加群を考えます。の基底をとして、に対して写像をで与えると、線形関数が定まります。記号が重複しますがこの線形関数をとします。
T4.11によると、は線形独立なの部分集合で、その濃度はとなります。濃度に関してはほぼ明らかです。実際に線形和を構成して適当なを写像してみると線形独立性も確認できます。さらにが有限のとき、具体的にとして、任意のに対してとすると、となることが計算で確認できます。したがってが自由加群となり、がその基底(双対基底)になります。
(可除環上の)ベクトル空間の場合についてもう少し考えます。可除環上の加群は自由加群なのでは必ず自由加群です。有限次元の場合はとなるので、P2.9を用いるとが成り立ちます。ただし無限次元の場合は、となります。この理由は、の集合を考えると分かるらしいです。
和とすると、はアーベル群となり、右作用によっては右加群となります。からを定める操作と、が誘導するは互いに逆写像(多分1)で、しかも準同型(多分2)だとすると、となるはずです(追記20220531:
Dual space - Wikipediaを見るともう少しシンプルな議論がありました:)。
そこでの次元を考察したいのですが、無限次元のとき、となり(?)、(追記20220531:特になことから)よりも大きくなってしまいます。
(追記20220603:(?)の部分は、Erdős–Kaplanskiの定理というようです。ちょっと長くなりそうなので記事を分けます)
畳んだ部分の方向性があってるかどうかは知りませんが、(追記20220603:意味不明すぎたので消した)何となくがで添え字づけられた弱直積で書けないところが理由っぽい気がします。同じ段落で、基底が無限でさらに可除ではない一般の環上の場合はは自由加群になるとは限らない、という話をしていて、実際がを張らない例を演習としています。これもが(弱直積でなくて)直積なために、の有限和では全ての要素を書けないからだと思います。
最後に双対の双対というものを考察して4節は終わります。すなわち左加群の二重双対を考えます。内側のHomは右加群なので、外側のHomは右加群準同型の集合であり、これは左加群となります。について、をとすれば、より右加群準同型であり、はによって左加群準同型となります(T4.12)。
続いて、が単位的かつが自由ならばは単射であり、さらにが有限基底を持つ場合は全射(前と合わせると同型)となります。前半はを具体的に書いたのちに作用させるとわかります。後半は、が連鎖的に有限な基底(それぞれ)を持つことがわかりますが、特にとするととできることから証明します。
いよいよ本当にわからなくなってきて写経マシンになってきた…
今日はまだ頑張ります…。冒頭に「今から3日分」と書きましたが、それは無理そうですね…
Hungerford4章読む(12/16)
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」16日目の記事です。久々に当日に書き始められた。
アーベル群が環の左加群であることを、右加群であることをと書くことにします。左加群かつ右加群であって、を満たすアーベル群を両側加群と呼び、と表記します。
12/12その2で、アーベル群は一般に加群にならないと書きました。さらにの場合を考えては左加群になるとも言いました。T4.8で、より様々な場合にHomがどのような加群の構造を持つかが一気に述べられています。
まずについて、がの作用によって右加群になります。さらに左加群準同型が誘導する写像が右加群準同型になります。また圏でも作るのか…?前半の主張は加群の定義を確かめていけばよくて、についてはT4.1でアーベル群の準同型なのはわかっているので作用に関してうまくいくことを計算すれば大丈夫です。
同様にについて、が作用によって左加群になることと、左加群準同型が誘導するが左加群準同型になることが言えます。
特別な例として、加群の場合を示します。例えばが可換の場合は任意の上加群はとなるような加群であり、はによってとなる加群になります。
自身を加群とみなすと、左加群に対してやもそれぞれ左加群、右加群となります。12/12その2で、単位的環と単位的環についてが単射であることを用いましたが、実はこれは同型になります。すなわちとを考えると、これらが互いに逆写像の左加群準同型になります(T4.9)。
はどのようなものでしょう…。というのは複雑な構造から単純な構造への写像なので、どのように潰せばいいのかを考えるにはについて何かわかってる必要を感じますね…。少し気になりますが詳細は恐らく後に出ることを期待して、とりあえずのことをの双対と言い、その要素を線形関数と言います。T4.8からの議論は右加群でもよくて、右加群の双対は左加群となります。
†デュアル†といういかつい名前ですが所詮はHomなので、T4.1から言ってきた話を適用することができます(T4.10)。すなわち左加群準同型が右加群準同型を誘導し(作用は)、加群の同型が成立します(T4.7)。さらにが可除環のとき、左ベクトル空間の完全列があるとき、右ベクトル空間の完全列が誘導されます。
この証明について、本ではT4.5などを見ろと言っていますが、わからなかったので別の方法でいきます。T4.6の形が示したいものと同じなので、が単射的であることが言えたらよさそうです。T2.4より可除環上の加群は自由加群で、係数環は任意の上加群の直和因子となります(T2.1)。P3.13よりが単射的となるので、T4.6を使うことができます。
明日も頑張ります。
Hungerford4章読む(12/15)その2
これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」15日目の記事です。
前回で一般には加群の短完全列がHomの短完全列を誘導しなさそうだと言いましたが、今回はHomの短完全列が構成される例を見て行きます。また、前回に引き続き大文字などは、特に何も言わなければ環上の加群を指すことにします。
P4.4は短完全列が分裂する場合です。すなわち、が分裂列であることと、が分裂列になること、同様にが分裂列になることがそれぞれ同値だと言っています。すでに左完全なのはわかっているので、右端の写像が全射であることが言えればいいです。逆に、例えばから言う場合は右端が単射であることを言えばいいです。
T4.5は射影的加群の場合はが完全列ならばが完全列になると言っています。特にが射影的であることと、全射に対して誘導写像が全射になることが同値であることに注意します。
P4.6は単射的加群の場合です。特にが単射的であることと、単射に対して誘導写像が全射になることが同値であることに注意すると、上の場合と同様に、が完全列ならばが完全列になります。
今日の最後に、直和や直積に対してHomがどう計算されるかを見て終わりにします(T4.7)。すなわち、上加群の族に対して、以下のアーベル群の同型が成立します。
が有限の場合直和と直積は同じことを言っていますが、無限の場合、直積を直和に置き換えることはできません(加群の直和=加群の弱直積;直和からの準同型で和の交換が起きるので非零成分が有限個しか許されない)。直和・直積の普遍性と同じ向きをしているので特に混乱はしなくてよさそうですね。
いままで4日/節ペースを辛うじて死守してたのに…
明日も頑張ります。