Hungerford4章読む(12/28)

これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」24日目の記事です。今夜はクリスマス~


今日読む3つの定理(T6.6、6.7、6.9)によって主イデアル整域 R上の単位的な有限生成加群 Aの1つ目の分解を得ます。

まず Aがトーション部分加群 A_tと自由 R加群 Fによって A = A_t \oplus Fと分解できます(T6.6)。剰余加群 A / A_tの元と r \neq 0について r(a + A_t) = A_t \Rightarrow ra \in A_t \stackrel{A_tがトーション}{\Rightarrow} \exists r_i \neq 0 , r_1(ra)=0 \Rightarrow a \in Aとなるので A / A_tはトーションフリーです。 A / A_tは( Aと同様に)PID上で有限生成なのでT6.5より有限ランクの自由加群です。自由加群は射影的なのでT3.4より完全列 0 \to A_t \hookrightarrow A \to A/A_t \to 0が分裂して A \cong A_t \oplus A / A_tが得られます。この同型によって A_t A_tに写り、 A / A_tは自然な射影の右逆写像となることから単射 F \subset Aに写ります。自由加群単射像は自由加群になる(と思う。基底からの包含を合成 X \stackrel{\iota}{\hookrightarrow} F' \stackrel{i}{\hookrightarrow} Fで考えて、任意の X \stackrel{f}{\to} Gに対して F \stackrel{i^{-1}}{\to} F' \stackrel{\bar{f}}{\to} Gとできそう)ので Fは有限ランクの自由加群となります。トーション加群と自由加群は0以外の共通部分を持たないので A = A_t \oplus Fが得られます*1
(20220625追記: ここの=の処理についてもう少しまじめに考える。実は一般に、右分裂列 0 \to A \overset{f}{\to} B \overset{g}{\underset{s}{\rightleftarrows}} C \to 0, gs=1_Cから直和分解 B = f(A) \oplus s(C)が得られます。
証明します。直和因子の共通部分から b \in f(A) \cap s(C)をとると、 f単射性から \exists ! a \in A , f(a)=bが、 s単射性から \exists ! c \in C , s(c)=bがとれ、 g(b) = g(f(c))=c。完全性から gf(a) = g(b)=0となり、 b=s(0)=0。次に \forall b \in Bに対して、 g(b)=gsg(b) \Rightarrow g(b-sg(b))=0から、 b-sg(b) \in \mathrm{Ker} g = \mathrm{Im} f = f(A)。さらに sg(b) \in s(C)より B \subset f(A) + s(C)。逆は明らか。
T6.1も同じ形式に取り込めます。左右の分裂列は同値なことはすでにT1.18で見ましたが再考します。左分裂列 0 \to A \overset{f}{\underset{r}{\rightleftarrows}} B \overset{g}{\to} C \to 0, rf=1_Aに対して、 h = 1_B -frとします。 hf=0 \Rightarrow \mathrm{Im} f \subset \mathrm{Ker} hとなるので、準同型定理より \exists ! s : B / \mathrm{Im} f \to \mathrm{Im} hが唯一存在し(余核の普遍性)、これにより右分裂列が得られます。
まとめると、分裂列は以下の形で特徴づけられます: 0 \to A \overset{f}{\underset{r}{\rightleftarrows}} B \overset{g}{\underset{s}{\rightleftarrows}} C \to 0に対し、 rf = 1_A , gs = 1_C , gf = rs = 0 , fr+sg=1_B。前3式が f,s,r,gが直和の入射や直積の射影と対応することをいい、最後の式によって実はこれらによる直和(=直積)とBが(同型よりも強く)等しいことがわかります。 )

T6.7ではトーション部分加群のほうに注目します。 AをPID R上トーション加群として、素元 p \in Rに対して A(p) = \lbrace a \in A | aはpのべきの(加群の意味での)位数をもつ \rbraceとします。このとき A(p) Aの部分加群で、 A A = {\sum}_{p \in R} A(p)と直和分解されます。特に Aが有限生成ならば有限個の A(p)だけが非零となります。これは各生成元は高々有限個の基底の線形和なので、無限個の直和にならないことからすぐわかります。
部分加群であることを言いたいので和と係数環の作用について閉じることを示します(0と逆元は明らか)。 \mathcal{O}_a = (p^r) , \mathcal{O}_b = (p^s)とすると、 k = \mathrm{max}(r,x)を取ってくることで p^k (a+b)=0とできます。T6.4より 0 \leq i \leq k , \mathcal{O}_{a+b} = (p^i)となり a+b \in A(p)が得られます。 Rの可換性から p^i ra = r p^i a = 0となり作用についても閉じているので A(p)は部分加群です。
 0 \neq a \in A , \mathcal{O}_a = (r)を考えます。既約元(素元)分解 r = {p_1}^{n_1} ... {p_k}^{n_k}して、 r_i = {p_1}^{n_1} + ... + {p_{i-1}}^{n_{i-1}} + {p_{i+1}}^{n_{i+1}} + ... + {p_k}^{n_k}とすると \lbrace r_i \rbraceの最大公約元は 1_Rとなります。T3.11より s_1 r_1 + ... + s_k r_k = 1_Rとなる s_iが存在し、 a = 1_R a = s_1 r_1 a + ... + s_k r_k aですが、各項について {p_i}^{n_i} s_i r_i a = s_i r a = 0 \Rightarrow s_i r_i a \in A(p_i)となることから各 A(p)の和が Aを生成することを示すことがわかります。あとは共通部分が0になることを言えばいいです。すなわち A_1 q \neq pが生成する部分加群として A(p) \cap A_1を考察します。 a \in A(p) \cap A_1のとき p ^m a =0かつ a = a_1 + ... + a_t , a_i \in A(q_i)となります。 q_i ^{m_i} a_i = 0から (q_1 ^{m_1} ... q_t ^{m_t})a = da = 0が得られます。この d p(すなわち p ^m)が互いに素なので r p ^m + sd = 1_R、すなわち a = 1_R a = (r p ^m + sd) a
= r (p ^m)a + s(da) = 0です。

 A(p)の性質を考えるためにL6.8を準備します。PID R加群 Aがある素元 p \in R n \in \mathbb{N}に対して p ^n A = 0 \land p ^{n-1} A \neq 0を満たし、 a \in Aの位数 p ^nとします。このとき、 A \neq Raならば 0 \neq b \in A , Ra \cap Rb = 0となります。そのような bを集めることで( A=Raの場合は C=0とすれば) A = Ra \oplus Cと部分加群で直和分解することができます。
証明です。 A \neq Raのとき、 c \in A - Raが存在しますが、 p ^n c \in p ^n A = 0から最小の正整数 j \ s.t. \ p ^j c \in Raが存在します( j=nのとき 0 \in Ra)。つまり p ^j c = r_1 a , r_1 \in Rで、既約元分解より r_1 = r p ^k , k \geq 0 , p \not| rとできるので 0 = p ^n c = p ^{n-j} r p ^k a = r p ^{n-j+k} aとなります。 aの位数 p ^nからT6.4より p ^{n-1} a \neq 0となり、 p \not| rと合わせると n-j+k \geq n \Rightarrow k \geq j \geq 1となります。したがって b = p ^{j-1} c - r p ^{k-1} a \in Aという元を作ることができます(積の逆元の心配がない)。この bについて p ^{j-1} c \in Ra jの最小性)から b \neq 0 pb = p ^j c - r p ^k a = r_1 a - r_1 a = 0が成立します。ここで Ra \cap Rb \neq 0、すなわち s \in R , 0 \neq sb \in Raを仮定します。 pb \neq 0より p \not| sであり、 s p ^nが互いに素なことから sx + p ^n y = 1_Rとできます。 b = 1_R b = sxb + p ^n yb \stackrel{p ^n A = 0}{=} x(sb) \in Raから p ^{j-1} c = b + r p ^{k-1} a \in Raが得られます。これは j-1 \neq 0とすると jの最小性に矛盾し j-1=0とすると c \not\in Raに矛盾するので Ra \cap Rb = 0が導かれました。
後半の証明に向かいます。 A \neq Raの場合を考えばいいです。 Raに対して B , Ra \cap Bとなるような加群の集合 \mathcal{S}を考えます。すでにそのようなものとして Rbが作れることは上で見たので、 \mathcal{S} \neq \emptysetです。 \mathcal{S}を集合の包含による半順序集合として、任意の全順序部分集合に対して上界 Aが存在することからZornによって極大元 Cの存在がわかります。この C Raによって Aが生成されることを見れば証明が終わります。そこで A/Cを考察します。 p ^n A = 0から p ^n (A/C) = 0 , p ^n (a + C) = 0です。 Ra \cap C = 0 , p ^{n-1} a \neq 0より p ^{n-1} (a+C) = p ^{n-1} a+ p ^{n-1} C \neq Cです。よって a+C \in A/Cの位数は p ^nであり、 p ^{n-1} (A/C) \neq 0を得ます。ここで、もし A/C a+Cの巡回加群でない(つまり A/C \neq R(a+C))と仮定すると、前半の定理を援用して d+C \in A/C , d+C \neq C , R(a+C) \cap R(d+C) = Cが得られます(剰余加群なので微妙に形が異なることに注意)。 R(a+C) \cap R(d+C) = C \Rightarrow (Ra+C) \cap (Rd+C) = C \stackrel{Ra \cap C = 0}{\Rightarrow} Ra \cap (Rd+C) + C \cap (Rd+C) = C \Rightarrow Ra \cap (Rd+C) = 0と計算できますが、これは Rd+C \in \mathcal{S}を意味します。 d \not\in Cよりこれは Cの最大性に矛盾します。よって A/C = R(a+C) = Ra+Cとなり、 A=Ra+Cが得られました。
後半部分の別証明が演習として出てきており、 Ra \cong R / ( p ^n ) R / ( p ^n )単射性を用いて分裂列 0 \to Ra \to A \to C \to 0を作るそうですが、見なかったことにします。誘導部分だけ眺めると R / ( p ^n )加群 R加群を相互に言い換えられることを用いて、まず係数環を R / ( p ^n )で考えてから最後の分裂列で Rについて考える流れらしい?

T6.9で A(p)=Aが位数 p ^{n_1} , ... , p ^{n_k} , n_1 \geq ... \geq n_k \geq 1の巡回加群の直和で書けることがわかります。すなわち A(p)はL2.2.5(iii)(アーベル群から Z_{p ^{n_i}}の直和を集めたもの)の類似物と言えます。
証明は Aの生成元の数 rに関する帰納法で行います。 r=1の場合は A(p)の生成元も1つなので明らかです。 r \gt 1として、 Aの生成元 a_1 , ... , a_rの位数を p ^{n_1} , p ^{m_2} , ... , p ^{m_r}とします。並び替えによって n_1 = \mathrm{max} \lbrace n_1 , ... , m_r \rbraceと選べば、 p ^{n_1} A = 0 , p ^{n_1 -1} A \neq 0が得られます。こうするとL6.8が使えて A = R a_1 \oplus Cとできます。自然な全射 \pi : A \to Cを考えると C \pi (a_1) , ... , \pi (a_r)で生成されますが、 \pi (a_1)=0より Cの生成元は a_1を除いた r-1個以下になります。よって Cに対して帰納法の仮定を適用できて、 Cは位数 p ^{n_2} , ... , p ^{n_k} , n_2 \geq ... \geq n_k \neq 1の巡回加群の直和で書けます(この添え字の付け方は証明がきれいになるためで、生成元の位数 p ^{m_2} , ... , p ^{m_r}と直和因子の位数 p ^{n_2} , ... , p ^{n_k}の対応関係は特に考えてないことに注意)。 p ^{n_1} A = 0 \Rightarrow p ^{n_1} C = 0を考えると n_1 \geq n_2が得られます。 R a_1は位数 p ^{n_1}の巡回加群なので、 A=R a_1 \oplus Cは位数 p ^{n_1} , ... , p ^{n_k} , n_1 \geq ... \geq n_k \geq 1の巡回加群の直和で書けることが言えました。

これらを合わせると、PID上の有限生成加群 自由群 \oplus トーション巡回加群の形に書けることが言えます。一意性に関しては続きに書かれているので次回読みます。


あと1日!長くつらかったアドベントカレンダーもようやく終わりそうですね。

明日も頑張ります。

*1:同型から=を導いた部分はT6.1と同じ流れで行けると思うけど…