Hungerford4章読む(12/31)

これは「今年中にHungerford4章読むぞ Advent Calendar 2021」25日目の記事です。最終日!


いよいよ6節も大詰めです。T6.6~6.9によって有限生成加群素数のべきの位数の巡回加群に分解しましたが、次に有限生成アーベル群の時と同様にもう1つの分解を得ます。最後にそのような分解がそれぞれ一意であることを見て締めくくります。以降で環 Rは主イデアル整域、加群はすべて単位的です。

L6.10ではそのための道具として、L2.2.5の加群版を導入します。
加群 Aに対して、 rA = \lbrace ra | a \in A \rbrace A \lbrack r \rbrack = \lbrace a \in A | ra = 0 \rbrace Aの部分加群だということは多分簡単にわかりそうです。2.2節との類似を考えると r = p ^n , A = A(p)の場合について、 p ^n A(p)は位数が p ^n以下の直和因子を消す、 A(p) \lbrack p ^n \rbrackは位数 p ^n以下の直和因子を取り出すような使い方をしそうですね。これらは直和 A \cong {\sum}_{i \in I} A_iのとき rA \cong {\sum}_{i \in I} r A_i, A \lbrack r \rbrack \cong {\sum}_{i \in I} A_i \lbrack r \rbrackが成り立ちます。証明は同型写像の制限を考えたらいいのでしょうか。
続いて R/(p)が体であることが、T3.3.4(i)とPIDの非零な素イデアルは極大であること*1とT3.2.20(i)からわかり、さらにその時 A \lbrack p \rbrack R/(p)上のベクトル空間であると書いてます。これは作用について考えれば証明できそうです。
剰余環 R/( p ^n ) R加群でもあります。このとき p ^m (R/(p ^n )) \cong R/(p ^{n-m}) , 0 \leq m \lt n (R/(p ^n )) \lbrack p \rbrack \cong R/(p)が成立します。最初にPIDにおいて剰余環 R/(p ^n ) 1_R + (p ^n )が生成する循環加群となることに注意します。前者の同型は p ^m (R/(p ^n )) p ^m + (p ^n )が生成する巡回加群であることを考えます。 p ^m + (p ^n )の位数が p ^{n-m}なのでT6.4より p ^m (R/(p ^n )) = R(p ^m + (p ^n )) \cong R / (p ^{n-m})です。後者は (R/(p ^n )) \lbrack p \rbrack p ^{n-1} + (p ^n )が生成する巡回加群であることを考えます。一段落前の結果から (R/(p ^n )) \lbrack p \rbrack R/(p)上のベクトル空間、すなわち基底が1つの自由 R/(p)加群となり、 (R/(p ^n )) \lbrack p \rbrack \cong R/(p)です。
 f : A \to B加群の同型のとき、 A_t \cong B_t , A(p) \cong B(p)が成立します。これも(T2.2.5を見ながら)同型の制限を考えると証明できそうです。

L6.11でPID上の位数 rの巡回加群(T6.4により R/(r)と同型になる)の分解を得ます。すなわち r \in Rは(一意に)素元分解 r = p_1 ^{n_1} ... p_k ^{n_k}され、このとき加群の同型 R/(r) \cong R/(p_1 ^{n_1}) \oplus ... \oplus R/(p_k ^{n_k})が存在します。これは互いに素な s,tに対して R/(st) \cong R/(s) \oplus R/(t)が証明できれば、 rの素元分解で出る素元の数に関して帰納法を用いて証明できます。
まず単射 /theta : R \to R , x \mapsto txを考えるとイデアル \theta ( (s) ) = (st)に写ることから、C1.8によって(単射)準同型 R/(s) \to R/(t) , x + (s) \mapsto tx + (st)が誘導されます。同様に R/(t) \to R/(st) , x + (t) \mapsto sx + (st)も得られます。直和の普遍性を考えると \alpha : R/(s) \oplus R/(t) \to R/(st) , (x+(s),y+(t)) \mapsto ts+sy+(st)が一意に得られます。これが同型であればいいですね。実際、 \mathrm{gcd} (s,t)=1_Rより su+tv=1_Rとできて、 R \ni c = suc + tvc , c+(st) = \alpha (vc+(s) , uc+(t))より \alpha全射となることがわかります。単射性は次のようにします*2 \alpha (x+(s) , y+(t))=0 \Rightarrow tx+sy=stb \in (st)を用いて y = 1_R y = (su+tv)y tの式に変形すれば y \in (t)にできます。すなわち utx+usy=ustb , usy = y-tvyから y=ustb-utx+tvy \in (t)です。同様に x \in (s)を得れば \mathrm{Ker} \alphaが自明になることが言えます。

さていよいよ加群の分解定理を得ます(T6.12)。主イデアル整域 R上の有限生成加群 Aについて次の2つの分解が存在します。

  •  Aは有限ランクの自由部分加群 Fと、有限個の巡回トーション加群に分解され、その位数 r_1 , ... , r_t \in R(各 r_iは同じでもいい)は 1_R \neq r_1 | r_2 | ... | r_tを満たします。自由加群 Fのランクと位数イデアル (r_1 ) , ... , (r_t ) Aにより一意に定まります。この位数 r_1 , ... , r_tを不変因子と言います。
  •  Aは有限ランクの自由部分加群 Eと、有限個の巡回トーション加群に分解され、その位数は p_1 ^{s_1} , ... , p_k ^{s_k}(各素元 p_j \in Rと指数 s_j \in \mathbb{Z}は同じでもいい)となります。自由加群 Eのランクと位数イデアル (p_1 ^{s_1}) , ... , (p_k ^{s_k}) Aにより(イデアルの順序を除き)一意に定まります。この p_1 ^{s_1} , ... , p_k ^{s_k}を単因子といいます。

単因子の存在はT6.6~6.9ですでに見ました。アーベル群のときと同様にして不変因子は単因子から計算されます。すなわち不変因子に出現した素元のリスト p_1 , ... , p_kに対して、 n_{ij} , 1 \leq i \leq t , 1 \leq j \leq k 0 \leq n_{1j} \leq ... \leq n_{tj}かつ \exists n_{ij} \neq 0となるように定めます。すると A_t \cong {\sum}_{i=1}^t {\sum}_{j=1}^k R / (p_j ^{n_{ij}}) \cong {\sum}_{i=1}^t R / (r_i)のようにして不変因子が得られます。 T6.6により自由部分加群は分解によらず A/A_tと同型になり、C2.12よりPID上の自由加群のランクは一意に定まります。巡回加群のランクの一意性を示す際には主イデアル整域 Rの既約元分解を用います。整数環の場合は単元が \pm 1ならば素元を正に限定することで一意に元を分解できますが、一般のPIDの場合はそのような限定が難しいので位数イデアルを考えて一意性を主張します。すなわち Z_pの対応物として R/(p)を考えて、 A \lbrack p \rbrack \cong R/(p) \oplus ... \oplus R/(p)の直和因子の数を A \lbrack p \rbrackの体 R/(p)における次元 \mathrm{dim}_{R/(p)} A \lbrack p \rbrackとみなし、その一意性を用います。

最後にC6.13で有限生成加群が同型になる条件を言っています。PID上の2つの有限生成加群 A , Bが同型であることと、 \mathrm{rank} A/A_t = \mathrm{rank} B/B_tかつ A , Bは同じ不変因子(または単因子)を持つことが同値となります。 A, Bそれぞれの分解を与えると、T6.4あたりを使えばいいんでしょうか。


非常につらい1ヶ月でした…。遅れに遅れてクリスマスどころか大晦日になってしまいましたが6節まできれいに終わることができてよかったですね。えっ7節?

まだ頑張らないといけないの…?

*1:これは (p) \subset (a) \Rightarrow (a) \ni p = ra pが素元なことから p | a \ or \ p | rを得て、前者の場合 (a) \subset (p)、後者の場合 r=tp, p=ra=tpa \Rightarrow p(1_R - ta) = 0 \Rightarrow R = (1_R) = (ta) \subset (a) \Rightarrow (a) = Rと導くことで証明できる。

*2: \thetaが誘導した写像 \alpha \iota単射でも \alpha単射とは限らない