Erdős–Kaplanskiの定理(Hungerford, Ex4.4.12c)

演習4.4.12cがすごく難しかったので記録。
取り合えず主張を書きます。

演習4.4.12c  Fを体。無限集合 X上の自由 F加群 Vに対し、 F ^X写像 X \to Fの集合としたとき、
 \mathrm{dim} _F F ^X = |F| ^{|X|}

この演習自体は、 Vの次元が無限次元においてその双対 V ^{*}と等しくない( \mathrm{dim} _F V = |X| \neq |F| ^{|X|} = \mathrm{dim} _F V ^{*})ことを示すもので、どうやらErdős–Kaplanskiの定理というようです。フランス語Wikipediaに記事があるのでGoogle翻訳に感謝しながら読むと、 |V ^{*}| \overset{全単射}{=} |F| ^{|X|} \overset{?}{\leq} \mathrm{dim} _F V ^{*} \leq |V ^{*}|を導く方針のようです。?の部分がわからなかったので他を当たります。

教科書N. Jacobson(1953)を読むと3ページに渡った証明があります。無限基数の性質 a \geq b \neq 0, a \geq |\mathbb{N}| \Rightarrow ab = a(HungerfordのT0.8.11)をよく使っています。大まかに書くと以下の流れになります。

  1.  V ^{*}の基底を X ^{*}として、 | V ^{*} | = |F| |X ^{*}|を示す。これは X ^{*}から有限の N個を取り出す場合の数と、 N個の基底に Fの元を割り当てる場合の数をそれぞれ計算して、さらに(HungerfordのT4.4.11: |X ^{*}| \geq |X|より) |X ^{*}|が無限なことに注意するとわかります。

  2. このとき |V ^{*}| = |F| ^{|X|}から、 |F| ^{|X|} = |F| |X ^{*}|となる。 |F| \leq |X ^{*}|ならば |X ^{*}| = |F| ^{|X|}が得られるので、以後は |F| \leq |X ^{*}|の証明を考える。これは |F| \leq |\mathbb{N}|ならば明らかなので、 |F| \gt |\mathbb{N}|を仮定する。

  3.  V ^{*}の線形独立な元(すなわち |X ^{*}|の要素)が |F|個以上とれることを証明したい。 x \in Xの双対 f_x \in X ^{*}として、 N個の基底 f_{x_n}を固定する。 N個の f^{(n)} \in V^{*} f^{(n)} = a^{(n)}_1 f_{x_1} + ... + a^{(n)}_N f_{x_N}, a_n \in Fと書くと、これらの線形独立性を N \times N行列 \lbrack a^{(n)}_m \rbrack _{nm}の非特異性に言い換えることができる。そのため、次のような性質を持つ集合 M \subset \lbrace a : \mathbb{N} \to F | a(i) = a_i \in F \rbraceを考える:
     \forall N \in \mathbb{N}, \exists a^{(1)} , ... , a^{(N)} \in M , \exists i_1 , ... , i_N \in \mathbb{N} , \lbrack a^{(n)}_{i_m} \rbrack _{nm}が非特異(これをstrongly independentな列の集合と呼ぶ)。すると線形独立な f \in V ^{*}の集合がstrongly independentな列の集合 Mから得られるので、 |M| \geq |F|を証明すればいいことがわかる。

  4.  |M| \geq |F|の証明の大まかな流れは以下。strongly independentな列の集合の集合 Sを考え、これに包含による半順序を入れる。鎖 T \subset Sの和集合もstrongly independentなのでZorn補題により Sの極大元 Mが存在する。この Mについて |M| \lt |F|としたとき、 \exists e \notin M M \cup \lbrace e \rbraceがstrongly independentとなるものが作れて、極大性に矛盾することを言えばよい。

  5. 無限列 eの構成は eの要素数についての帰納法によって行います。すなわち、任意の p \in \mathbb{N}に対して Fから長さ pの列 ( e_1 , ... , e_p )を取ってきて、 \forall r \leq p , M \cup \lbrace ( e_1 , ... , e_p ) \rbraceから得られる任意の r \times r行列が非特異にできることを調べます。
    まず p = 1のときは、 e_1 \neq 0とすれば M \cup \lbrace (e_1) \rbraceから非特異な 1 \times 1行列を作れることは明らかです。次にある p個の Fの元 e_1 , ... , e_pを取ってきて、 \forall q \leq pに対して M \cup \lbrace (e_1 , ... , e_p) \rbraceから得られる任意の q \times q行列が非特異であることを仮定したときに、 \exists e _{p+1} \in F , \forall r \leq p+1 , M \cup \lbrace (e_1 , ... , e_p+1) \rbraceから得られる任意の r \times r行列が非特異であることを証明すればいいです。
    行列の特異性は行や列の並び替えによって変わらないので、次の形の行列について考えればいいです:

 \begin{pmatrix}
 & & & * \\
 & \huge{A} & & \vdots \\
 & & & * \\
e _{i_1} & \dots & e _{i _{r-1}} & e _{p+1}
\end{pmatrix}

ここで AMから得られた r-1 \times r-1(非特異)行列です。したがって ( e_{i_1} , ... ,e_{i_{r-1}} ) Aの行ベクトル ( a^{(1)}_{i_1} , ... ,a^{(1)}_{i_{r-1}} ) , ... , ( a^{(r-1)}_{i_1} , ... ,a^{(r-1)}_{i_{r-1}} )の線形結合で表されます。この(唯一に定まる)係数を k_1 , ... , k_{r-1}とすると、 e_{p+1} \neq k_1 e_{i_1} + ... + k_{r-1} e_{i_{r-1}}であれば上の行列は非特異になるそうです*1
ここで Aおよび ( e_{i_1} , ... ,e_{i_{r-1}} )の選び方を考えると、まず Mから a ^{(1)} , ... , a^{(1)}_{i_{r-1}}を選び、その後 \lbrace 1 , ... , p \rbraceから i_1 , ... , i_{r-1}を選ぶので、 {\sum}_{r=1}{^{p+1}} _{|M|} \mathrm{C} _{r-1} \times _p \mathrm{C} _{r-1}通り*2あります。これは有限か |M|になるので、前者ならば |F| \gt |\mathbb{N}|(2で仮定)、後者ならば |M| \lt |F|(4で背理法の仮定)より、 |F|はこの場合の数よりも大きいことがわかります。
 Aおよび ( e_{i_1} , ... ,e_{i_{r-1}} )を与えると、 e_{p+1}として望ましくない wが1つ定まりますが、あらゆる選び方によって wを求めた集合 Wの要素数 |F|より小さいため、補集合から e_{p+1}を取ることで、任意の上の行列は非特異になります。

長かったですね。疲れた…


ところで検索をしていくと、https://arxiv.org/abs/2010.01983という論文で、別の証明方法が与えられているのを見つけました。アブストに「more natural and much easier」と書いているので期待が持てますね*3。読んでいきます。

arxiv:2010.01983では次の定理の系としてE-K定理を証明しています:

Theorem 2 @ arxiv:2010.01983  Fを体。自由 F加群 V |V| \geq |\mathbb{N}|を満たすとする。  F ^{\mathbb{N}} \overset{加群準同型}{\hookrightarrow} Vまたは |F| \lt |V|ならば、 \mathrm{dim} _F V = |V|

この定理で Vとして F ^Xを考えると、 |\mathbb{N}| \leq |X|より |F ^X| \geq |\mathbb{N}|かつ F ^{\mathbb{N}} \hookrightarrow F ^Xなので、直ちに \mathrm{dim} _F F ^X = |F ^X|が得られます。では証明を見ていきます。

  1. 体は少なくとも2つの元を持つことから、 \mathrm{dim}_F V \leq |V|がわかります。すなわち以下では \mathrm{dim}_F V \geq |V|を示すことを考えます。

  2.  V \neq {0}なので、 |V| \geq |F|。したがって |V| \gt |F| |V| = |F|の場合を考えれば十分。ここで |V| \gt |F|の場合を考えると、Jacobsonの証明の手順1と同様にして、 |V|は基底から有限の N個を取り出す場合の数と N個の基底に Fの元を割り当てる場合の数の積ですが、 \mathrm{dim} _F V \lt |V|のときこの場合の数は |V|にはならないので、これでOKです。

  3.  |V| = |F| (\geq |\mathbb{N}|)の場合を考えます。まず仮定 F ^{\mathbb{N}} \hookrightarrow Vを思い出すと、 \mathrm{dim}_F V \geq \mathrm{dim}_F F ^{\mathbb{N}}がわかります。したがって \mathrm{dim}_F F ^{\mathbb{N}} \geq |F|を証明すればいいことがわかります。
    これはJacobsonの証明の手順2とよく似ていますね。実際、以降の証明はJacobsonとかなり似た手順を踏むのですが、すでに体 Fの列が見えているので、Jacobsonの手順3で出る行列の動機が少しは自然に見えるような見えないような…。さらに有限和を考えるために複雑になっていた行列の性質が単純になっていることがわかります。これによって次のような単純化が行えます。

  4.  F^{\mathbb{N}}の部分集合(部分加群 A = \lbrace (a^n) | a \in F - \lbrace 0 \rbrace \rbraceを考えて、 Aが線形独立なことを証明すればよい。この時、 \mathrm{dim}_F F ^{\mathbb{N}} \geq \mathrm{dim}_F A = |A| = |F - \lbrace 0 \rbrace | \overset{|F| \geq |\mathbb{N}}{=} |F|です。
     Aが線形独立
\Leftrightarrow \forall p \in \mathbb{N} , {\sum}_{i=1}^{p} k_i (1, a_i , a_i ^2 , ... ) = 0 \rightarrow \forall k_i = 0 \\
\Leftrightarrow \forall p \forall n \in \mathbb{N} , {\sum}_{i=1}^{p} k_i a_i ^n = 0 \rightarrow ... \\
\Leftarrow \forall p \forall n \in \lbrace 0 , ... , p-1 \rbrace , {\sum}_{i=1}^{p} k_i a_i ^n = 0 \rightarrow ...
    3段落目は、雑に言うと P \to P'かつ P' \to Qならば P \to Qということをやってます。また(→)が成立しないことに注意します。
    3段落目\Leftrightarrow


\mathrm{det} \begin{pmatrix}
1 & \dots & 1 \\
a_1 & \dots & \vdots \\
\vdots & \dots & \vdots \\
a_1 ^{p-1} & \dots & a_p ^{p-1}
\end{pmatrix}
\neq 0

この左辺はヴァンデルモンドの行列式であり、 {\prod}_{1 \leq i \lt j \leq p} (a_j - a_i)と計算されます。これは( \lbrace a_i \rbraceが相異なるため)0でないことがすぐわかり、 Aが線形独立であることが示されました。

…こちらも議論が単純化されたとは言え中々の分量でしたね…。たいへんでした(小並感)。ただ、演習4.4.12cと見比べるとこちらが想定解っぽいですね。ヒントとして \lbrace (a^n) | a \in F - \lbrace 0 \rbrace \rbrace \subset F^{\mathbb{N}} \subset F^Xくらいあったら出来る人なら出来る…のかな…


両方の証明を見比べると、まあ考え自体は同じで、部分空間の行列の特異性を用いて次元を(下から)評価していますね。Hungerfordの5章はもうしばらく進められてませんが、体を拡大したときの相対的な次元が重要そうだったので、今後こういうテクニックが出てくるのでしょうか。

*1:確かめてない

*2:sumの上付きがうまくいかない…

*3:この比較対象は別の教科書ですが…